保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」 (PHP文庫)
著者:須賀義一
僕のところには保育士の方からの相談が多数寄せられます。
悩んだ末の相談なので深刻なものも多いです。中にはこんなものがあります。
Q「園の保育方針が合いません。仕事に行くのがとてもつらいです。どうすればいいでしょうか?」
保育士は優しい人が多いですから、もし自分の勤めた園で子供をあたたかくケアしていないものであっても、自分がいることで子供たちの支えや救いになってあげたいと考え、その職場の保育に納得がいかなかったり自分への周りの職員の風当たりが強くてもなんとかこらえて子供たちのために尽くそうとしがちです。
その頑張りの結果、心身ともに疲労して「燃え尽き」が起こってしまいます。
そんな保育士がたくさんおります。
こんなときどうすればいいでしょうか?
①モチベーションにできる
保育の仕方は好ましいものでないにしても、別に上司や同僚が威圧的・攻撃的というわけでなければ、自分が子供たちの支えとなることをモチベーションにしてその職場で頑張り続けるというのもひとつの選択肢でしょう。
②保育の改善に取り組む
もし、あなたが園長や主任、または経験年数が長いなどでその施設内で指導的立場に立てるのであれば、少し頑張ってよりよい保育の仕方を伝えたり、同僚を勉強会に誘ったりすることでその園の保育自体をいいものに変えていくことをひとつのモチベーションにして続けることも可能です。
③転職・退職も考慮する
自分のことだけであれば努力や頑張りでなんとかすることもできますが、相手のあることでしたらそうとばかりも言えません。
子供にいい保育をしていない施設は職員にも適切な扱いをしていないことも少なくありません。
それでも真面目な人ほど、
- 「私の頑張りが足りない」
- 「もっと我慢しなければ」
と考えたりしてしまいます。
それによりウツになってしまったり身体の健康を損なったりしては元も子もありません。
「園児のために頑張らなければ」というのも自分の健康があればこそです。
仕事として行う以上は、心身の健康を損なうような自己犠牲までしてはいけません。
より自分に合うところで無理なくこの仕事を続けることも、回り回って子供たちのためなのです。
そういうときは退職や転職を考慮することも必要です。
現在は幸いなことに保育士の就職は「売り手市場」になっています。
もし、さほど転職に乗り気でなかったとしても保育士の転職サイトなどに登録するだけしておいて自分に合う条件の募集があったとき考えてもいいと思います。
いまはコーディネーターの方が、その人の希望に合わせたところをきちんと提示してくれることも一般的になってきています。
「今すぐにでも転職したい」というのでなければ、いろいろと希望する条件を出しておいてそれにあう募集があれば考えるといった使い方もできるのです。
本当に心身ともに追い詰められてしまってからだと、よい転職先を探したりする気力や余裕が失われてしまったり、転職するまでに健康を回復する期間が必要だったりと自分の人生の不利になることが増えかねません。
保育士の転・退職理由の一番は人間関係ですが、その実態は同僚との関係よりもむしろ
園長や経営者との関係が最も多いです。
残念なことに子供たちに不適切な保育をしているところや、職員に不当な対応をしている施設も現にあります。
しかし、一方で職員一体となってよりよい保育を目指しお互い励まし合って頑張っていたり、職員によい環境で仕事をしてもらうことに心を砕いているところもまたたくさんあります。
じっくりと探してみれば、きっとあなたに合う職場は見つかることでしょう。
「仕事は一カ所で長く続けることが大事である」と考える向きもありますが、それはモラハラまがいのことに耐えながらや不当な労働条件を我慢しながらとか、子供たちが虐げられるのを我慢して見ながらではないはずです。
退職はその意思表示のひとつになります。
保育園は狭い組織です。
そこでしか働いていないと「それはおかしい」という感覚が麻痺してしまうこともあります。
僕の聞いたことの中にはこんなことがありました。
一部ですがご紹介します。
- 言うことを聞かない子に対して食事抜きなどの罰を与える
- 物置や押し入れなどに子供を閉じ込める
- 子供の前でその親の悪口を言う
- 大人でも辛くなるような怒り方を子供にすることが常習的になっている
- ベテラン職員が子供に対して心を傷つけるような言葉を発している
- 「子供たちがあなたにばかりダダをこねるのはあなたが甘いからだ」と責められる
- 子供の安全にどうしても必要な備品の購入を経営者に要望したところ「あなたたちの給料から引いていいなら買う」と言われた
- 新人のオリエンテーションと称して一ヶ月以上も無休で働かされた
- 監査の日だけどこからともなく知らない職員が増える
- 園長が職員の指導と称して、身体的な特徴をあげつらったり個人攻撃・人格攻撃をする
- 退職を希望してものらりくらりとかわして退職願を受け取らない
そのような状況に合ってもそこに問題があることに気づかず、それが普通のことなのだと思ってしまったり、そこでうまくできないのは自分が悪いからなのだと自分を責める形で考えてしまうことがしばしば起こります。
特に若い人や経験年数の浅い人ほどなりやすいです。
上にあげた中にある
- 「子供たちがあなたにばかりダダをこねるのはあなたが甘いからだ」と責められる
これなどはその典型です。
保育の目指す方向自体がわからなくなることが起こります。
この子供たちの問題の本当のところは、その職員が「甘いから」などではないのです。
他の先輩職員が子供を支配的に管理・抑圧しすぎているために、若い人、新人職員、優しい職員に「助けて欲しい」というサインを出しているがためにそのようになっているわけです。
しかし、そういったことに耐えながら限界まで働いて「もう二度と保育に関わる仕事はしたくない」と保育士そのものを辞めてしまう人もたくさん見てきてしまいました。
せっかく子供に関わるよい仕事を目指して保育士になったのに、その施設や一部の職員に問題があったためにこころざし自体を無にしてしまうのは大変もったいないです。
どうかそうなってしまう前に、他の自分を活かせる職場を探すという選択肢も持っておいて欲しいと思います。
自分を守ることや、職場を選び直すことは少しも悪いことではないのです。
※このコンテンツは保育士の方に作成していただいています。
1974年生まれ。
大学時代はドイツ哲学を専攻。
人間に携わる仕事を目指し、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年「保育士おとーちゃん」として、自身の保育士としての経験、また専業主夫として育児をしてきた経験を元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
一般に当たり前と考えられている子育ての問題点を示し、現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝え、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書
(ともにPHP研究所)を出版し、現在は、子育てアドバイザーとして、講演、保育研修、育児相談、コラム執筆、監修等をしている。